言の葉の庭の魅力を4つの観点で書いてみる
200日以上前に書いて下書き保存で残していて折角なので、記事の公開をしてみます。
内容は、昨年5月31日に公開された新海誠監督の最新作、「言の葉の庭」について。
まずはストーリー
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性・ユキノと出会う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。(公式HPより引用)
この作品をきっかけに2、3回新宿御苑に行ったり、BDも購入するなど結構はまってしまいましたが、今回はこの作品の魅力を4つの軸で書きたいと思います。
1.文学作品として味のある作品(作品表現)
言の葉の庭は作品の至る所に文学要素が散りばめられています。
例えば、万葉集と村上春樹
作中で重要な役割を担うのが万葉集の歌です
鳴る神の 少し響みて(とよみて) さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば
(訳)
雷が少し轟き、曇ってきて、雨でも降らないかしら。あなたを引きとめられるのに。
雷が少し轟き、雨が降らなくても、私は留まりますよ。あなたが引きとめて下されば。
万葉集の頃は恋は孤悲と表現され、一人で誰かを思う切ない気持ちを表したそうです。
ユキノの自分の正体を表したいという気持ちや
タカオのユキノへの思いが万葉集を上手く使い表現されている。
これに関しては、新海監督のインタビューに面白い記事があったので載せておきます。
新海誠監督インタビュー 「万葉集」と“雨”の歌から生まれた、「これは雨宿りの映画」 | シネマカフェ cinemacafe.net
また新海監督は村上春樹の影響をかなり受けており、今作の台詞にも引用されております。
「わたしたち、泳いで川を渡ってきたみたいね」
ノルウェイの森のタイトルには興味深い話があり
村上は、この「ノルウェイの森」というタイトルについて、初めは気に入っていなかった。この作品は、「雨の中の庭」というタイトル(ドビュッシーの『版画』より「雨の庭」(Jardins sous la pluie)から)で書き始められ、途中で「ノルウェイの森」というタイトルに変更された。
というように元々、雨の中の庭という名前だったようで、それを知っていた新海監督は今作中にノルウェイの森の台詞を多用したように思えます。
2.写実的な美しい映像(映像表現)
今作は新宿御苑の庭園でのシーンが大半を占める作品ですが、ジブリ作品のような作画に近い印象を受けました。CGでの作成で、リアルに近い描写で表現されております。
そして特に、面白い作りをしているのは人物描写です。
このシーンのユキノの髪や服の色には、全体に緑の色が入っております。
この表現が実に現実に忠実で、たしかに緑の中にいると自身が緑がかって見えます。
そのような細かな描写まで忠実に再現させている映像の美しさだけでも十分に楽しめる作品となっております。
また、タカオがノートに靴の絵を描いているときのノートがしなっていたりするなど通常のアニメーションでは再現しないものが多く非常に面白いです。
3.世界観にあった過去の名曲を利用(音楽表現)
今作は音楽も話題になりました。
秦基博さんの歌うRainが作中挿入歌として採用されましたが、こちらの曲は1980年代に大江千里氏により歌われた曲でそのカバーになります。
映画「言の葉の庭」での復活が話題。大江千里の名曲「Rain」とは - NAVER まとめ
映画の上映はちょうど梅雨入りの前後、雨がユキノとタカオを繋ぐ役割を持っており、雨というものが1つの大きな要素として扱われております。
新海監督はとあるインタビューで下記のような発言をしているように雨の作品ではRainを利用しようと決めておられたようです。
『言の葉の庭』は雨をテーマにした映画。元々大江さんの「Rain」はすごく好きな曲で、もし雨の作品を作ることがあれば使わせてもらいたいと思っていました。80年代の曲なので、現代(いま)の映画に合う、現代(いま)の歌声に包んで皆さんに届けたいと思い、秦さんにお願いしました。
何はともあれ、詩の世界観と作品がマッチしていており、作品の価値を更に上増しする効果を生んでいます。
また柏大輔氏が担当したBGMは、ピアノの旋律が非常に美しく音楽もまた楽しむ要素になります。
Other voices-遠い声- » 新作アニメーション「言の葉の庭」の音楽について
4.多彩なメタファ(文学表現②)
先ほど雨が重要な要素と書きましたが、それ以外にも重要な要素は出てきます。
その1つが靴です
今作では靴がメタファとして扱われており、
・日常生活を過ごす上での’靴’
・今後の未来へ進んでいくために歩くための’靴’
という2つの意味で描かれております。
また、雨と同様に、ユキノとタカオが心を通わせる媒体の1つにもなっております。
この他にはいくつかメタファとして表現されているものがあり、読み込めば読み込むほど味がある作品です。
以上、4つの観点で作品を書きました。
とても良い作品ですので、まだみたことの無い方は是非見ていただければと。